浜松パワーフード

JR浜松駅から車で40分。遠州灘沿いに国道１号線を走り、潮見坂を上った丘陵地帯に浜名湖ファームがあります。ここは静岡県の西端に位置する湖西市白須賀。浜名湖、遠州灘、湖西連峰に囲まれた自然豊かな土地です。

浜名湖ファームは、県内では3軒しかない、うずらの卵を生産する養鶉場（ようじゅんじょう）です。9万羽のうずらを飼育し、1日で6万個の卵を生産しています。また、そのうずらのフンから良質な肥料を生産。その肥料を使用して野菜や果物の栽培も行っています。

「全国に養鶉場が何軒あるか知っていますか？たったの30軒ですよ。そのうち、10軒が隣の豊橋市に集中しています。この辺りは古くからう養鶉が盛んな土地だったみたいです」

お話を伺ったのは、浜名湖ファームの代表を務める近藤哲治さん。義父の養鶉場を継いで、1999年に浜名湖ファームを立ち上げました。

生命力は発酵の力、微生物の力です。

浜名湖ファームのうずら達は、乳酸発酵させた手作りのエサと、海と湖の澄んだ空気、湖西連峰のミネラルを含んだ井戸水をたっぷり与えることで、抗生物質や殺菌剤に頼らず飼育しています。病気に強く元気に育ったうずらから、安心・安全な卵が産まれます。

抗生物質や殺菌剤は、悪い菌を殺しますが、私たちは乳酸菌や酢酸菌など、良い菌をたくさん増やすことで、うずらを病気から守っています。乳酸発酵させた飼料でうずらの腸内環境を活性化させ、良い菌にもとから備わっている殺菌効果を利用して病気に強くしているんです。

うずらの一生分の元気“命のカプセル”をいただく。

この小さなうずらの卵は、一羽のうずらが生まれるための全ての栄養が詰まった“命のカプセル”です。卵を食べるということは、命をまるごと頂くということ。うずらの一生分の元気をもらうことなんです。

うちの卵はぜひ生で食べてみてください。うずら独特の臭みがないので、黄身の濃厚なうま味が際立ちますよ。

うずらの卵独特の臭みは、飼料に含まれる魚粉に由来するもの。それを乳酸菌が分解することで臭みを消し、うま味の強い卵に育てています。病気に強い卵を目指した結果、他にはない美味しさを追求することにつながっているのです。

うずらの卵は栄養価が高く、中でもビタミンや鉄分、葉酸を多く含み、美肌や貧血、集中力アップなど、さまざまな効果があり、中国や東南アジアでは古くから滋養強壮食材として親しまれています。

元建築技師から養鶉家へ

抗生物質や殺菌剤、ワクチンを使用しない飼育は、理想的な姿である一方、実現するには荒唐無稽な夢の飼育方法とも感じられます。いったいどのようにしてこの飼育方法を可能にしているのでしょうか。

私は建築技師から養鶉家に転身した、いわば素人から出発した養鶉家です。農業や畜産の専門知識を学んでいなかったからこそ、自分の素直な疑問にまっすぐ向き合えたんだと思います。

義父から引き継いだばかりの頃は、従来通りの飼育方法でワクチンや殺菌剤を大量に使っていた近藤さん。殺菌剤をどんなに使用しても一定数のうずらは病気にかかり、産卵率は上がらなかったそうです。
「このままでは生活もままならない、何かがおかしい」と感じはじめた近藤さんは、病気にかからない健康なうずらを育てれば、ワクチンや殺菌剤を使用せずに済む、というシンプルな考えにたどり着きました。

ワクチンや抗生物質を使用しないというのは、とても勇気がいることです。ですから、必死で酵素の勉強をしたり、無農薬農法の農家へ行って勉強したりして、うずらが病気にかからないための技術をひとつひとつ増やしていきました。

“浜名湖ファームイズム”の結晶

浜名湖ファームのうずら達から出たフンは、1か月ほど熟成させて、肥料に生まれ変わります。この肥料は、ワクチンや殺菌剤を使用せず、乳酸菌や酵素を多く含んでいるので、畑の土に混ぜると、土に含まれる微生物が活性化され、どんどん増えていきます。

この肥料の粒には、 浜名湖ファームのすべての営みが凝縮されているので“浜名湖ファームイズム”が結晶した粒だと言えます。

命を繋いで、自然を守る。

浜名湖ファームで作った発酵液は、浜名湖の牡蠣の殻の消臭に使用されています。さらにその牡蠣殻を焼いて粉砕した粉と、うずらの肥料を配合した良質な肥料も開発されています。 良質な肥料で作った綺麗な土は、作物を育て、やがてはその土のミネラルは海や湖に流れていきます。

牡蠣の殻の裏側のキラキラしたところには、牡蠣の身を守るための自然の殺菌成分が含まれているんですよ。浜名湖の風土の恵みを素直に享受して、その分を浜名湖に返す。自分たちにできることは、命が循環する小さなサイクルを作ることです。それを少しずつ増やして、いつかひとつの大きな輪になっていけばいいと思います。

自然の力を信じ、安心・安全なものづくりを貫く浜名湖ファームイズムは、少しずつファームの外へ広がりを見せています。小さな命の循環と、うずら一生分の元気が詰まった“命のカプセル”をぜひ一度召し上がってください。