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ストーリー

峯野牛
峯野牛

浜松市北区引佐町は奥浜名湖エリアに位置し、遠州の奥座敷と呼ばれる豊かな自然と名刹、名園が残る地域です。

浜松の市街地から車で1時間。標高約200mの緑に囲まれた中山間地域で広さ5200㎡の牧場を営むのが、峯野牧場の二代目峯野忍さん。今から45年前に忍さんのお父様が三頭の牛から始めた牧場です。

「近くまで上がってくると、急に空気がヒヤッとするでしょう。牛たちは体が真っ黒ですから暑さに弱いんですよ。うちは夏でも比較的涼しい場所ですから、牛たちには過ごしやすい所だと思います」

奥浜名湖の自然の恵み

全国的に日照時間が長いことで知られる浜松市の中でも、ここ北区は晴れの日が一番多いエリア。昔からみかん栽培が盛んな地域ですが、50年ほど前から農協の勧めでみかんと兼業で肉牛の飼育を始める農家が増えました。

「牛の飼育にとって太陽の光は健康な体づくりに欠かせません。またここは清涼な空気と南アルプスから流れてくる綺麗な天然水、そして山に囲まれた静かな環境が揃っているので、牛にとってはとても良い環境が揃っています」

幼い頃から牛の世話や植物の世話が好きだったという忍さん。ただ、家業を継ぐとは思ってなかったそうです。

「僕は次男なので、家業は兄に任せて理系に進むつもりでした。結局長男が継がなかったので、農業の大学に進学しました。でも子どもの頃から牛によく接していたので、全然違和感はなかったですね。畑の野菜にしても、研究したり調べたりしながら育てあげるのが好きでしたね」

苗字から取ったブランド名 峯野牛の誕生へ

大学卒業後は研究施設等の就職も考えていた忍さんでしたが、BSE問題によって国内の牛肉市場価格が暴落。大学卒業後はすぐ家業を継いで、悪化した牧場経営の再建に乗り出しました。忍さんがまず取り組んだのは、牛のブランド化です。

「うちの牛は、恵まれた環境とこれまで磨いてきた飼育技術によって、いわゆる霜降り具合が良い、市場価値の高い牛を育てていました。品評会や大会で入賞するなど、良い成績をおさめることが多かったんですね。ただうちの欠点は、一頭に対して手間がとてもかかるということ。広い牧場で多くの牛を飼育している所では、エサ代も安くなるし労働も楽です。うちのように傾斜地に牛舎がいくつも分かれて建っている牧場は、牛にとって環境はいいけれど、働く人間は大変です」

365日休まず働いていても、このままでは市場競争で生き残れない。牧場存続のためには、思い切った梶切りが必要でした。

「うちで良い牛ができるというのは、よそにはできない環境と技術です。生産量は増やせない代わりに、一頭一頭を大切に育て、牛の価値を高めてブランド化することを決意しました。だから峯野牛という、苗字から取ったブランド名になりました」

産地直送だから届いたお客様の声

もうひとつの改革が、市場へ出荷していた牛を直接販売する「産地直送」に切り替えたことです。

「販売を他社に任せると、仕入れ値や販売価格も相場に左右され、経営が不安定になります。生産原価から値段を決めて売ることで、相場に左右されない安定した経営になるのでは?と考えました」

2015年に開業した峯野牛直売店

「産地直送」に取り組む牧場は浜松市内でここだけ。静岡県内でも数軒しか行っていません。当初は販売価格を安定させるために始めた「産地直送」でしたが、これによって峯野牛のブランド価値を飛躍させる大きなきっかけとなりました。

「僕が跡を継いでからも、うちで目指していたものは、あくまでも市場価値の高い霜降り肉。ところがある時お客様から『もっと赤身が美味しいあっさりしたお肉はないの?』というお声をいただくようになったのです。これには正直驚きました。今でこそ赤身肉はブームですが、それでも市場において最も高値で取引きされるお肉は今なお牛肉最高等級A5ランクの肉。市場価値の高いお肉が、お客様が求めているお肉だと信じていたからです」

等級は赤身肉のうま味とは別

等級とは、「その牛からどのくらい商品となる牛肉が取れるのか」を評価したアルファベットの等級と、「牛肉の色沢」「牛肉の締まりときめ」「脂肪の色沢と質」「脂肪交雑(脂肪の入り具合)」の4つを総合的に5段階の数字で評価した肉質等級の2つの評価を表しています。数字の肉質等級は牛肉の見た目に関するものが多く、味を評価しているわけではありません。ただ、味を左右する評価には違いありませんので、市場ではこの等級が評価の基準になっています。

「峯野牛を立ち上げて数年は、着実に売上を伸ばしていたのですが、ある時横ばいになったんです。名前が売れていないことで、『牧場直送だから安いよね』とお客様も思ってしまう。でも実際はすごいコストをかけて育てているので、大量生産の牛肉と比べたらどうしても高くなってしまいます。これはこのままじゃいけないと感じていた時期に、赤身の肉が食べたいというお客様の声をいただいて、これだと思いました」

とうもろこし、大麦、玄米など厳選素材をブレンドした飼料

「等級は赤身肉のうま味とは別。霜降りだけではない、肉の美味しさを追求しなければならない」
このことに気が付いた忍さんは、それまでの市場価値の高い肉から、赤身肉がおいしい肉へと飼育方針をシフトチェンジ。エサもやり方も全部変えて赤身のうまみが自慢のお肉作りを追求しました。

峯野牛のこだわりは『うまみが自慢』、『霜降りよりも赤身』。融点の低い脂は口に残りにくくあっさりしています。脂が少ないことでソースとの相性が良いことからフランス料理との相性が良く、シンプルな味付けで肉のうま味が際立つ峯野牛は和食にもぴったり。うま味が強く、希少価値の高い肉として料理人から高く評価されています。

牛本位の飼育でストレスを軽減

現在、峯野牧場で育てている牛は300頭。そのうち180頭が峯野牛の「候補生」です。
霜降りが入りすぎても峯野牛の認定は出せません。

鼻輪をしていない牛。人間を怖がらず寄ってきます。

「良い牛を育てるには、ストレスがないというのがとても大事なんです。えさの時間を毎日一定にして、常に新鮮な試料を与えています。また、うちの牛の特徴は鼻輪をしていないところですね。鼻輪は人間が牛を管理しやすくするものであって、牛にとってはストレスの元です。ここでは、すべてが牛本位。人間はその次なので、スタッフは大変だと思います」

牧場の牛は、ひとつの牛舎に同じ大きさや月齢の牛を一緒にして集め、一度5頭の群を決めて飼育しています。同じ群れで移動や場所変えをしないようにすることで、喧嘩せず仲良く過ごせるそうです。

愛情いっぱいに育てること

牧場スタッフは6人。農場長、繁殖部門、子牛部門、たい肥専門、牧草部門、その他なんでもこなす人員が2人います。 牧場の一番上は子牛やお母さん牛のエリア。子牛の牛舎では、ここで20年にわたり子牛を育ててきたベテランが担当飼育員がしています。

「子牛は大人の牛に比べて繊細な所があります。具合が悪い時は顔を見たらすぐわかりますね。人懐っこい子もいれば、引っ込み思案な子もいて、人間の子と一緒ね。本当にかわいいですよ」

新しく増設したお母さん牛の牛舎は牧場内でもとりわけ緑に囲まれた静かな場所。ここではこれから出産を控えた母牛と、生まれたばかりの子牛が穏やかなに過ごしています。

「愛情いっぱいに育てること。そしてこの自然豊かな土地で、僕たちにしかできない方法で牛を育てること。峯野牛は、お客様の声に耳を傾け、常に一番良い方法を模索して変わり続けてきたことで進化してきました。これからも日々研究を重ねて、赤身のうまみを追求していきたいと思います」

峯野牛直売店

住所:
静岡県浜松市北区根洗町130-5
電話:
053-523-7770
URL: