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ストーリー

地域産業の新しいカタチ 〈うなぎいも〉でつながる循環型社会を目指して
地域産業の新しいカタチ 〈うなぎいも〉でつながる循環型社会を目指して

遠州地方は古くからさつまいも栽培が盛んな地域で、その歴史は江戸時代まで遡ると言われています。浜松市の遠州浜周辺にはさつまいも畑が広がり、温かな砂地で通常より早く育ったお芋は「早堀り甘藷(かんしょ)」として知られています。

うなぎいも畑

この歴史ある浜松のさつまいもに、新しいブランド芋が誕生したのは今から9年前の2011年。浜松の食の代名詞である「うなぎ」の加工段階で出てくる頭や骨などの残渣(ざんさ)から肥料を作り、育てた<うなぎいも>が誕生しました。

循環型社会を目指して

 

「僕たちはもともと、浜松の造園会社で造園や伐採のほか、剪定枝や刈草を堆肥化するリサイクル事業の仕事をしてきました」

うなぎいも協同組合の理事長 伊藤拓馬さん

お話を伺ったのは、うなぎいも協同組合の理事長を務める伊藤拓馬さん。浜松で大正2年から続く造園会社の新規事業として農業参入し、うなぎいも協同組合を立ち上げた立役者です。

伊藤さんが担当していたリサイクル事業では、浜松で伐採された草木廃棄物を資源に堆肥を作り、浜松の畑に還元させる「循環型社会」を目指す取り組みを行っていました。ところが実際には堆肥のほとんどが、大規模な農地を保有する隣の愛知県で使用されていました。

「堆肥を運びながら、浜松の農業の高齢化、耕作放棄地の実態を目の当たりにして、正直このままでは浜松の農業が衰退してしまうという危機感を覚えました。そうなると、僕らが目指す堆肥のリサイクルも進まない。どうにか浜松の農業を元気にしたいという想いで農業への参入を決意しました」

浜松の新ブランド芋 <うなぎいも> の誕生

 

耕作放棄地や遊休農地を利用して、わずか3人で農業をスタートさせた伊藤さんたちは、いくつか栽培した作物の中から、どうにか育てることができたさつまいもに限定し、ネットで販売することにしました。

「はじめから結構売れたんですよ。でも僕たちの芋や浜松の芋に期待して買ってくれたわけじゃない。ブランド芋が高くて買えなかったからうちの安い芋を買っただけです。この先栽培技術が向上しても、同じやり方では状況は変わらないと思ったんです」

 

浜松の農業が元気になるためには、浜松の農産物として売れなければならない。そう考えた伊藤さんは、浜松の食の代名詞「うなぎ」に注目。廃棄物リサイクルの経験から、浜松産のうなぎの加工過程で、頭や骨が廃棄処分されていることに着目。それを肥料にすることを考案しました。

「うなぎの堆肥で育てた芋を<うなぎいも>と名付けることで、僕たちが浜松で芋を作る意味が生まれたと感じました。浜松といえばうなぎ。そのわかりやすさが重要だったんです」

うなぎの残渣には、亜鉛やマンガンが多く含まれており、もともと甘味の強い紅はるかの特徴をさらに引き出すことになりました。 さらに、砂地の栽培は水はけが良く、堆肥はけも良い。芋を大きく育てた後は肥料が抜け、過酷な環境で育つことで芋が栄養を蓄えようとして甘味を増すのです。蒸かしたお芋の糖度は40度にもなり、ねっとりとした食感と濃厚な甘みを楽しめるお芋が誕生しました。

うなぎいもを地域産業へ

 

「僕たちは新規参入で農業を始めましたから、生芋では勝負できないと思っていました。うなぎの堆肥を使うことで美味しい芋になりましたが、形をそろえる技術がない。そこで、きれいな形の芋を作るという技術を一旦捨てて、味だけで勝負した芋づくりを始めたんです。収穫した芋は全部ペースト状や乱切り、フレークなどに加工して出荷することにしました」

卸本町のうなぎいも協同組合(1階がカフェ、2階が加工場)

伊藤さんたちは、<うなぎいも>の6次産業化(※1)を目指し、残渣を提供するうなぎ業者や一緒に芋を生産する農家を募って「うなぎいもプロジェクト」を2011年に立ち上げました。2013年には農業者が出資して協同組合を設立。生産者、製造業、小売業等が一体となって<うなぎいも>のブランド力向上に取り組む仕組みを確立しました。

加工品として出荷することで商品化する手間が省けるため、<うなぎいも>を使う業者が増加。地元の菓子店とのコラボ商品やお土産商品も次々と開発が進みました。人気キャラクター<うなも>の後押しもあり、<うなぎいも>は、あっという間に浜松の新名物として浸透していきました。 現在では20軒の農家で年間200tほどの生芋を生産し、40種類以上の商品が販売されています

(※1)農林漁業の6次産業化
1次産業としての農林漁業と、2次産業としての製造業、3次産業としての小売業等の事業との総合的かつ一体的な推進を図り、農山漁村の豊かな地域資源を活用した新たな付加価値を生み出す取組です。これにより農山漁村の所得の向上や雇用の確保を目指しています。

<うなぎいも>で浜松を元気にしたい

 

「商品が認知されることによって、今度は芋そのものを食べてみたいというお客様の要望が増えたんです。当初は加工品用の芋の中から形が良いものを見繕って出荷していましたが、今では生で出荷できる芋を作って、規格に合わないものを加工用にしています」

現在では台湾を中心に、香港、マレーシア、シンガポール、タイ、カナダにも輸出。甘くておいしい<うなぎいも>は、海外で高く評価されています。

「僕たち作ろうとしているのは、農産物だけではなく、農家が持続的に儲かる仕組みそのものです。自分たちで全部やるのは大変ですが、安定した収入を得ることができます。長く続く産業にしないと意味がないですから。」

県外への出店や、海外への販路拡大、うなぎいものテーマパークなど、やりたい事はまだまだ沢山あるという伊藤さん。

「加工業者、配送業者、保管業者、販売業者、そして農家。地域のさまざまな業者が<うなぎいも>に関わることで、浜松を元気にしたい。農業を中心とした持続可能な社会を目指したいですね」

うなぎいも協同組合

住所:
浜松市南区卸本地50番
電話:
053-443-7615
URL:
https://www.unagiimo.com/index.html